急速に変化する世界において新興技術がグローバルな安全保障の状況を塗り替える中、NATOは防衛機能のデジタル化と将来の脅威への備えを確実にする取り組みを開始した。この取り組みは、同盟の作戦能力に革命をもたらすことを目的とした NATOデジタルトランスフォーメーション実施戦略(NATO Digital Transformation Implementation Strategy) に集約されている。このロードマップは、競争が激化する時代において即応性が高く、強固で統一された同盟を目指す NATO 2030 のビジョンを補完するよう設計されており、人材、プロセス、技術、データの4つの主要分野での発展の道筋を示している。
人工知能(AI)、自律システム、量子技術といった技術は、世界とNATOの運用方法を変えつつある。
NATO戦略戦争開発司令部(Strategic Warfare Development Command ‐ SWDC)によると、「こうした新興・破壊的技術(Emerging and Disruptive Technologies ‐ EDT)は、NATOおよび同盟国にとって危険性と同時に機会も提供する」「だからこそ、同盟は官民パートナー、学界、市民社会と連携し、新技術の開発・導入、責任ある使用のための国際的原則の確立、そしてイノベーションを通じたNATOの技術的優位性の維持に取り組んでいる」
NATOのデジタルトランスフォーメーションの背景にあるビジョン
NATOのデジタルトランスフォーメーションへの取り組みは、単なる必要性に留まらず、新たな課題に対処するための積極的な一歩でもある。技術が進化するにつれて、戦争や防衛の方法も変化する。この戦略は、NATOの枠組み内に先進的なデジタルツールやシステムを統合し、相互運用性、データ管理、サイバー防衛の強化を目指している。
「NATOおよび欧州連合(EU)におけるデジタルトランスフォーメーションの取り組みは、欧州各国政府が2030年代に向けてデジタル能力を段階的に最適化する中で、前向きな影響を与えている」と国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies ‐ IISS)が発表した報告書「NATOおよびEUにおける防衛のデジタル化:デジタル時代に適応した欧州防衛の実現(Digitalisation of Defence in NATO and the EU: Making European Defence Fit for the Digital Age)」は述べている。また、この報告書は「欧州の安全保障は、デジタルトランスフォーメーションに関するベストプラクティスの共有、共通の技術基準とデータ共有政策の確立、防衛計画におけるデジタル能力要件と目標の調整から恩恵を受けるだろう」としている。

2022年、同盟は抑止力を強化し、集団防衛へのコミットメントを支えるため、NATOの技術的優位性を高める必要性を確認した。この戦略の成功は協力のパラダイムシフトにかかっており、その範囲は学術界、市民社会、産業界にまで及ぶ。
「こうした機会を捉えつつ、同時に新興・破壊的技術(EDT)がもたらす脅威に対抗するため、NATOは同盟国と連携し、責任ある、革新的かつ機敏なEDT政策を策定している。これらの政策は、実質的かつ意義ある活動を通じて実施可能である」と戦略戦争開発司令部(SWDC)は述べている。さらに「学術界や民間部門の関係パートナーとの連携を強化することで、NATOは技術的優位性と軍事的優越性を維持し、侵略の抑止と同盟国の防衛に貢献することを目指す」と続けた。
デジタル化の取り組みの背景には、2021年6月に同盟首脳が承認したNATO 2030イニシアティブ(NATO 2030 Initiative)がある。このイニシアティブは、NATOが世界的な競争の激化、予測困難な脅威、破壊的技術、そして中国・北朝鮮・ロシアによる安定的で開かれた国際秩序への挑戦に適応する中で具体化したものである。「より予測不能で競争の激しい世界に立ち向かうため、結束して強固に立つこと——それが NATO 2030イニシアティブの核心である」と、提案内容をまとめたファクトシートは述べている。

政治協議と調整を深化させる。同盟国首脳は、安全保障に影響する問題についてより頻繁に協議することを約束し、軍備管理や新興・破壊的技術などの問題について協議を継続するとともに、安全保障に関連する経済問題に関する協議を再開するための措置を講じることを確約した。
抑止力と防衛力を強化する。各国首脳は抑止力と防衛力の強化に合意し、核兵器、通常戦力、ミサイル防衛能力の適切な組み合わせを維持するというコミットメントを改めて確認した。
レジリエンスを向上させる。同盟国はレジリエンスに対して、より協調的なアプローチを取る計画を立て、より明確で測定可能な同盟全体の目標に基づき、各国に適合したレジリエンス目標と実施計画を導く政策を策定することで合意した。これにより、NATOは集団防衛を支える取り組みをより適切に評価し、レジリエンスを同盟の広範な態勢や計画とより良く結びつけることが可能になる。
訓練と能力構築を強化する。同盟国は、テロ対策、安定化、ハイブリッド攻撃への対応、危機管理、平和維持活動、防衛改革などの分野における同盟国の能力向上のため、NATOの取り組みを強化することで合意した。
NATOの技術的優位性を維持する。同盟国は、重要技術における大西洋横断の協力を強化し、相互運用性を促進し、民間イノベーションを活用するため、北大西洋防衛イノベーション・アクセラレーター(Defence Innovation Accelerator for the North Atlantic、DIANA)を設立することで合意した。
安定的で開かれた国際システムを維持する。同盟国は、志を同じくするパートナーや国際機関との関係を強化するとともに、アフリカ、インド太平洋地域、ラテンアメリカとの新たな関与を構築することで合意した。

演習ライド・スピリットで、ドローンのソフトウェアを更新している
米国陸軍人工知能統合センター(Artificial Intelligence Integration Center)所属の兵士。マイカ・ウィルソン(MICAH WILSON)/米国陸軍
人工知能(AI)の役割
AIは、NATOのデジタルトランスフォーメーションにおいて重要な役割を果たすと見込まれている。AIは意思決定プロセスを強化し、データ分析を高度化し、サイバーセキュリティ対策を強化することができる。同盟は、これらの能力を作戦に統合するため、AIの研究開発への投資を進めている。
「AI技術の能力は、これまで以上に急速なペースで進化を続けている。生成AIなどの強力な新興AI技術において、前例のない発展と広範な普及が進んでいる」と、2024年7月に発表されたNATOの改訂AI戦略は述べている。「これらの技術は、複雑なテキストやコンピューターコード、現実的な画像や音声を、ほぼ無限の量で生成することができ、人間が作成したコンテンツとの区別がますます困難になっている。NATOにとって、適用可能な分野では、これらの技術を可能な限り早期に活用することが極めて重要である」
改訂版AI戦略は、能力開発および運用におけるAI導入の加速と主流化を図り、同盟内での相互運用性の強化を主な要素とするものである。同盟は次のように述べている。「同盟国の防衛当局、軍、武装部隊がデータとAIを活用して能力と対応力を高める中で、NATOは同盟国間の情報交換や優良事例の共有を促進するためのプラットフォームとして機能できる。また、他の機関によって進められている類似の取り組みも認識している」
今後の方向性
NATOがデジタルトランスフォーメーションを進める中で、同盟は透明性と説明責任への取り組みを引き続き行う。定期的な評価と更新により、この戦略が進化する技術状況や安全保障環境に適合し続けることが保証される。
実施戦略は段階的なアプローチを示しており、短期・中期・長期の目標が設定されている。この構造化された計画により、柔軟性を保ちつつ着実な進捗が見込まれる。
NATOのデジタルトランスフォーメーション実施戦略は、同盟の先見性と現代に適応する決意を際立たせている。デジタル化を積極的に導入することで、NATOは防衛能力を強化するだけでなく、世界の安全保障機関にとっての先例も築いている。
戦場での優位性は、あらゆる領域での支配に加え、軍事活動の統制、非軍事活動の同期化、そして適時性のある効果の収束を実現することによって達成される、と同戦略は述べている。
世界がよりデジタル化された未来へ向かう中、NATOの取り組みは明日の安全保障の動向を形作る上で重要な役割を果たす。この戦略は革新性、協力、そしてレジリエンスを融合させたものであり、NATOが引き続き世界の防衛の最前線に立つことを保証する。
「成功するためには、デジタルトランスフォーメーションは技術的に関連性があり、地理的・組織的に拡張可能で、人間中心(人を第一に)であり、何よりも時間との競争に勝つ必要がある」とIISS報告書は述べている。また、「適切に機能し、安全なデジタル企業体と部隊は、欧州軍隊の計画された技術的トランスフォーメーションを推進する鍵となる。両者は、マルチドメイン統合を受け入れ、今日の戦略環境において意思決定優位を達成するための前提条件である」とも述べている。
