80年近くにわたり、「法の支配」と呼ばれるガイドラインや原則が世界の安定を維持し、各国の繁栄を支えてきた。 しかし、2024年8月にネブラスカ州オマハで開催された「米国戦略軍抑止シンポジウム」に集まった安全保障アナリストたちは、この構造が今、危機に瀕していると指摘した。
今年で15回目を迎えるこの会議には、800人以上が参加した。 出席者は、軍、学界、産業、その他の組織から15か国の代表者が集まった。 シンポジウムのパネリストによれば、イラン、北朝鮮、中国(、ロシアによる核兵器増強の動きや、これらの国同士の協力関係の高まりは、複雑な地政学的環境を作り出しているという。
米国国防総省の元国防次官補代行(宇宙政策担当)ヴィピン・ナラン(Vipin Narang)博士は、「我々は今、軍備管理やリスク削減の努力に無関心で、核兵器を急速に近代化・拡大し、その目的を達成するために核兵器を使用すると公然と威嚇する、複数の修正主義的な核の挑発者が混在する前例のない、新たな核の時代に身を置いている」と述べ、 「我々が直面している核の課題は、どれひとつをとっても、それだけで困難なものである。しかし、今日、当事者らが協力関係を強め、結託していることを示す兆候が見られ、この新たな核時代におけるエスカレーション管理や機会を狙った侵略の抑止といった課題について、我々は新たで慎重な考え方を迫られている」と語った。
ナラン氏は、米国とその同盟国および提携国は、近代的な核抑止力を継続し、かつ増大させなければならないと述べた。 「現在の核戦力態勢と計画的近代化プログラムは必要だが、今後数年で不十分なものになる可能性がある」と同氏は指摘した。
ワシントンD.C.を拠点とする政策シンクタンク、ハドソン研究所(Hudson Institute)のマーシャル・ビリングスレア(Marshall Billingslea)上級研究員は、ロシアは「常習的な条約違反者」だと述べた。 ロシアのウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領は、ロシア、英国、米国がウクライナに対する威嚇や武力行使をしないことを保証することを条件に、当時世界第3位の核保有国だったウクライナが核兵器を放棄することに合意した1994年の「ブダペスト覚書」に違反した、と同氏は指摘した。 ロシアはウクライナ侵攻以来、通常兵器の在庫を枯渇させており、核兵器への依存度を高めている、とビリングズレア氏は言う。
「ロシアは現在、ウクライナで時代遅れの旧式の兵器システムを配備しており、北朝鮮やイランに兵器を求めている」
ロシアの行動に加え、中国が核拡散防止条約(NPT)第6条が定める核兵器に関する誠意ある交渉を拒否したことで、米国はインド太平洋地域への核兵器配備と欧州での核兵器拡大を余儀なくさ れる可能性がある。 また、米国とその同盟国および提携国は、「中国に対して積極的な外交的圧力キャンペーンを展開し、中国を辱め、中国が第6条の義務を守り、交渉のテーブルに着くよう圧力をかけるべきだ」と述べた。
ランド研究所(Rand Corp.)の副所長兼国家安全保障研究部副部長のバリー・パヴェル(Barry Pavel)氏は、ユーラシア大陸が次の大規模な戦争の舞台となる可能性があると指摘し、
「これは世界的な紛争になる可能性が非常に高い。しかし、現時点では我々は米インド太平洋軍(U.S. Indo-Pacific Command、INDOPACOM )の戦争や潜在的なヨーロッパの戦争に備えて依然としてタテ割り状態で計画を進めており、それでは我々が進むべき方向には到達できないと思う」と述べた。 同氏は、米国とその同盟国および提携国に対し、この地域の安全保障上の脅威に対抗するための戦略と計画をよりよく調整するよう求めた。
さらに「我々が目指すのは、敵を立ち止まらせ、我々がどのような行動を取るかを敵に懸念させるポジションに到達することだ」と述べ、 「我々は常に相手のやっていることに後手後手で対処し続けるべきではない」と語った。
また同氏は、米国とその同盟国および提携国は、中国の潜在的な経済威圧行動シナリオに対抗する計画を立て、「中国が韓国やリトアニアやチェコを威圧したとき、経済活動や貿易の観点から、また威圧の性質が何であれ、その空白を埋めてくれる一連の同盟国が存在するように」すべきだと述べた。
法の支配を強化する方法のひとつは、虚偽のメッセージに対抗することだ、と米国国務省のマロリー・スチュワート(Mallory Stewart)軍備管理・抑止・安定性局次官補は言う。
「ロシアや他の国々は、米国政府が自分たちに有利なルールや、自分たちが優位に立てる原則や規範だけを支持していると非難する傾向がある」とスチュワート次官補は指摘し、 「我々が言っているのは国際法であり、ロシアと中国、そして国際社会の大多数が自由に合意し、決定し、構築した国際法のことだ。
我々の安全を守り、数十年に及ぶ安全保障を提供し、経済力を確立し、人道的な成果を上げてきたルールや規範というのは、どの国もその創設に参加し、何年も何年も様々な形で評価してきた法律や規範の制度のことだ」と述べた。
そして、これらの法律と規則は、安全性、安定性、透明性を提供し続けている、と同氏は指摘した。
「ロシアや中国をはじめ、国際法や規範の価値を認めることから遠ざかっているすべての政府に、なぜそれが自国の利益につながるのかを改めて認識させる必要がある。 国際的な法体系を遵守し、責任ある行動の規範を全面的に守れば…… 我々は皆、より大きな成功と安全を手にすることができる」
