人工知能(AI)は、戦いの未来を変えている。戦闘員の装備には、迅速で機敏な判断と精度の高い操縦を可能にする機能が搭載される。兵士、水兵、海兵隊員、衛兵、航空兵は、データを迅速に集約して分析し、リアルタイムの決定を可能にする通信ネットワークとモデリングおよびシミュレーションプラットフォームを装備することになる。自律システムは、外部制御から独立し、徐々に長距離・長時間で操作できるようになる。
米国国防総省(DOD)は、同盟国・パートナー国および産業界と連携し、中国やロシアなどの急速に進展する脅威に対抗するためのAI技術の開発と拡大を進め、世界的な安全保障を確保する取り組みを進めている。AI技術が急速に進化する中、軍は新たな能力の導入を急ぐ一方で、これらのツールが戦場にもたらす潜在的なリスクに取り組んでいる。AIを兵器に使うというと、反乱を起こしたロボット兵士が人類に敵対する映画のようなシナリオを思い浮かべるかもしれないが、防衛の専門家は、AIによって可能になる技術を防衛と抑止力の強化に活用しないことの方が大きなリスクになると指摘している。
当時の米国国防副長官キャスリーン・ヒックス氏は、2023年11月にDODの最新のAI戦略を発表した際に次のように述べている。「我々はAIを責任を持って迅速に作戦に統合することに注力してきたが、その主な理由は明快だ。なぜなら、それは我々の意思決定の優位性を高めるからだ。侵略の抑止と防衛の観点から、AIを活用したシステムは、指揮官の意思決定を速め、その意思決定の質と精度を向上させることで、戦闘の抑止や戦闘での勝利に決定的な影響を与える可能性がある」

AI技術は、機械(通常はコンピュータシステム)が人間の知能を模倣し、情報を収集・分類することで、報告書の作成やデータの転記など特定のタスクを実行可能にする技術である。機械学習は、外部からのプログラミングなしでコンピュータが学習する能力を可能にするAIの一分野である。これらのシステムは、データを使用して自己学習を行い、パターンを発見し、予測を行い、システムがより多くのデータを収集し統合するにつれ、精度が向上していく。例としては、携帯の予測変換テキストやユーザーの過去の購入履歴に基づいて提案を行うオンラインショッピングサイトなどが挙げられる。
AIツールは、戦場でのより迅速で正確な判断に加えて、他の方法で軍を支援することができる。訓練プラットフォーム、自動運転車、兵站ツール、情報収集、サイバー防衛機能には、AI技術が組み込まれている。衛星画像は、予測AIツールを使用して、核兵器やその他の大量破壊兵器の配備など、安全保障上の脅威が発生する可能性のある場所を特定するのに役立っている。
「分析は本当に素晴らしいが、それは主に遡及的なものであり、時間を遡って調べる犯罪科学的な能力に過ぎない」と、世界的な衛星画像企業であるプラネット・ラボ社(Planet Labs)の最高経営責任者であるウィリアム・マーシャル(William Marshall)氏は2024年6月、ディフェンス・ワン(Defense One)誌で語っている。2022年のロシアのウクライナ侵攻に先立ち、ウクライナのクリミア半島でロシアが部隊、航空機、武器を増強していたことを米情報当局が特定するのにプラネット社の衛星画像が役に立った、とディフェンス・ワンは報じた。「原則として、生成型AIモデルは衛星データを活用して、起こりそうなことを予測できる、例えば、ここでは干ばつが発生する可能性が高く、それが市民の不安や騒乱につながる恐れがある、などだ」と同氏は言う。

AIは、統合軍全体および同盟国・パートナーとの間でデータ共有に活用されている。2017年、DODは戦場における標的を自動的に識別する技術を活用してAI機能を開発するプロジェクト・メイブン(Project Maven)を立ち上げた。同省の2018年の国家防衛戦略では、AIを米国が「将来の戦争で戦い、勝利する」ための重要な技術のひとつと位置付けている。オーストラリア、英国、米国は、複数のシステムにAIアルゴリズムを組み込み、対潜水艦、偵察、精密な標的設定などの能力間のデータ共有と処理を強化している。米国戦略軍(USSTRATCOM)は、核の指揮統制通信システムにAIを統合する予定だ。
「高度なAIおよび堅牢なデータ分析機能は、意思決定の優位性をもたらし、抑止態勢の改善につながる」と、米国戦略軍司令官のアンソニー・J・コットン大将は言う。「ITとAIの優位性は、通常戦力と核戦力の効果的な統合を可能にし、抑止力を強化する」
重要なのは、AIは常に人間の監視下にあるという点だ。AIはデータ収集と分析を支援し、情報をより迅速に収集・統合し、より迅速な解決策を開発し、USSTRATCOMのリーダーシップに意思決定の余地を拡大する役割を果たす。
「我々のやることはすべて、人間が関わっている」と米中央軍の副司令官であるブラッド・クーパー米国海軍中将は、フロリダ州タンパの南フロリダ大学で世界国家安全保障研究所が主催した2024年3月の会議で、軍の指導者、政府関係者、業界代表者、学者からなる聴衆に向け語った。「最終的には、意思決定は人間が行う。AIによってより効果的になるのは、意思決定のプロセスだ。以前は想像もできなかったようなスピードで行動できるようになった」と語った。

米国政府は、米国がAI能力の開発において競合国よりも優位に立てるように取り組んでいる。2017年、中国は2030年までにAI分野で世界を牽引する計画を詳述した戦略を発表した。2か月も経たないうちに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、同国がAI技術の開発を推進する意向を表明した。
2024年11月、ジョン・ヒッケンルーパー(John Hickenlooper)米国上院議員は戦略国際問題研究所 (CSIS)のパネル討論会で、「グローバルな競争を常に念頭に置かなければならない」と述べた。同議員は、中国がAI能力の構築に「驚異的な」数の資源を投入していると指摘し、「しかし、この国には起業家精神とイノベーションが結びついた体制があり、その歴史的な協力関係を通じて、高等教育機関、民間部門、軍隊、それらがすべて我々の進歩を加速させている」と述べている。
2024年10月、米国政府は、AI分野における米国のリーダーシップ促進を目的とした国家安全保障に関する覚書を発表し、AIシステムの導入を加速するための政策目標を定めた。
当時、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めていたジェイク・サリバン(Jake Sullivan)氏は2024年10月、国防総合大学での講演で「今後の国家安全保障にとってこれほど重要な技術は他にないため、我々はこれを正しく理解しなければならない」と述べた。「リスクは非常に高い。より意図的に行動して自国の優位性を獲得することなく、国家安全保障を強化するためにAIをより迅速かつ包括的に展開しなければ、我々は苦労して築いた優位性を無駄にするリスクを負うことになる。たとえ我々が最高のAIモデルを保有していても、競合国の方が展開が早い場合、彼らが我々の人員、軍隊、パートナーと同盟国に対してAI機能を使用し、優位に立つ可能性がある。最高のチームを持っていても、それを現場に投入しなければ負けてしまう」とヒックス氏は述べた。

ヒックス氏が2023年のAI導入戦略で強調した「意思決定の優位性」は、以下の5つの成果に焦点を当てている。(1)戦場空間の認識と理解、(2)任務に応じて柔軟に編成する部隊の計画策定と適用、(3)高速、正確かつ回復力のあるキルチェーン、(4)回復力のある持続支援、(5)効率的なエンタープライズ業務運営この部門は、「迅速なアプローチ」による導入を通じてこれらの成果を達成することを目指しており、反復、革新、改善の継続的なサイクルを通じて技術開発者とユーザーの間に緊密なフィードバックループを確立し、導入速度を月単位や年単位ではなく、数時間や数日までに加速する。「開発者、ユーザー、対象分野の専門家、テスト・評価の専門家の間で効果的で反復可能なフィードバックループを作ることで、機能がより安定し、安全で、倫理的かつ信頼できるものになる」と報告書は指摘している。「導入のための迅速なアプローチは、提供のスピードと継続的な改善を重視し、プロセスよりも成果を優先する」
エネルギー問題
防衛やその他の分野でAIツールを適時的に展開し、信頼できる可用性を確保するには、大規模なエネルギーインフラの整備が必要である。大量のデジタル情報を保存するデータセンターは、広大な土地を占有し、エネルギー消費量を桁違いに増加させる。さらに、AIソフトウェアを運用するサーバーは、冷却のために大量の水を必要とする。その環境への影響は明確である。GoogleとMicrosoftは2024年に、AIの作業負荷をサポートするために新たなデータセンターでエネルギーを使用したことが原因で、温室効果ガス排出量が過去数年間で二桁の増加を記録したと報告している。
業界の専門家によると、基本的なテキストクエリにAIツールを使用すると、Google検索の10倍以上のエネルギーを消費することがあるという。
シアトルにあるアレン人工知能研究所(Allen Institute for AI )の上級研究分析員ジェシー・ドッジ(Jesse Dodge)氏はナショナル・パブリック・ラジオに対し、「ChatGPTへの1回のクエリで、電球ひとつを約20分間点灯させるのと同等の電力を消費する」とし、「つまり、毎日何百万人もの人がそのようなサービスを利用していることを考えると、非常に膨大な電力消費量になる」と語っている。
「今後の国家安全保障にとってこれほど重要な技術は他にないため、我々はこれを正しく理解しなければならない」
ジェイク・サリバン、元国家安全保障問題担当大統領補佐官
元米国連邦エネルギー規制委員会委員長であるニール・チャッタージー(Neil Chatterjee)氏は、AIツールのエネルギー需要に対応するためには、従来のエネルギー源と再生可能エネルギー源を組み合わせた供給体制を整備する必要があると述べた。
同氏はまた次のように述べている。「需要予測を正確に把握し、必要な電力量を算出する必要がある。この需要急増に対応し、電力の安価な供給と同時にその信頼性を維持するために必要な対策については、まだ十分に検討が進んでいないと思われる。AI用のデータセンターを支え、AI競争で勝つためだけでなく、真夏の酷暑や真冬の厳寒の中、一般家庭の電力供給が制限されないよう、確実に十分な電力を確保する必要がある」
ChatGPTの開発者であるOpenAIのグローバル政策担当本部長クリス・レヘイン(Chris Lahane)氏によると、AI機能とそれを可能にするエネルギーインフラに対する需要は、政府や産業界、同盟国とのパートナーシップを通じて最も効果的に実現されるという。同氏は、米国が過去に全国的な州間高速道路網やインターネットの早期開発など、大規模なインフラプロジェクトの開発に成功してきたことを指摘した。
「現在、米国が優勢だが、その優位性は保証されていない」と、同氏はCSISのパネル討論会で述べた。その優位性を維持するためには、建設許可、投資インセンティブ、原子力発電の再活性化など複数の分野での進展が必要である。「その状況を鑑みると、本当に大きな視野で考え始めるべき時期だ。繰り返しになるが、この規模でこのようなものを構築できるのは、世界で米国と中国だけだ」と同氏は語った。
ガードレールの設置
一部の指導者は、新たに登場するAI能力が安全性と安定性へのリスクを増大させることを懸念している。2023年7月の報告書で、国連大学は、偏見、プライバシー、安全保障といったリスクを回避するために、技術の進展に応じて柔軟に対応できるAIガバナンス枠組みの構築を求めた。AIは、商用ツールによって収集され、政府によってアクセスされる不正確なデータに基づいて、グループや個人を標的にするために使用される可能性がある。

「データがここでの根本的な問題である。データは膨大な懸念と脆弱性を引き起こし、トレーサビリティのような広範な議論においては考慮されていない」と、プライベートで安全な通信を推進する非営利団体であるシグナル財団(Signal Foundation)の会長、メレディス・ウィッタカー(Meredith Whittaker)氏はディフェンス・ワン誌に語った。同氏は、ニューヨーク大学のAI Now研究所(AI Now Institute)が2024年10月に発表した論文の著者3人のうちの1人であり、AIの潜在的なリスクに警鐘を鳴らしている。論文によると、AIは公開データと個人データから収集したパターンに基づいて機能を実行するため、無実の一般市民が誤って標的リストに登録される可能性があるという。著者らは開発者に対し、軍事用AIシステムと個人データを商用モデルから隔離するよう強く求めている。ウィッタカー氏は政府に対し、プライバシー法を拡大し、民間人の個人情報を含む商用データセットへの悪意のあるアクセスを防止するための法律を強化するよう求めた。
米国政府は、AIセキュリティに関する覚書の中で、プライバシーと市民の自由に影響を及ぼす既存の政策と手続きを「AIの効果的かつ責任ある利用を可能にする」ためにどのように改訂すべきかを検討するよう、DODと情報機関に指示した。この覚書はまた、他の連邦機関に対し、人権、市民権、市民の自由、プライバシー、安全を守るために積極的な措置を講じるよう求めている。
「我々は、我々の強みである民主的価値、多様で開かれた社会、創造性の文化、他に類を見ないイノベーション基盤、そして世界規模の同盟国・パートナーから成るネットワークで牽引するこで成功を収めるだろう」とし、「私たちは、データ、分析、AIを活かし、米国の国民と世界の防衛・安全保障・繁栄のために共に取り組んでいく」とヒックス氏は述べた。
