インド太平洋地域は、特に経済・安全保障面で地政学的に重要な拠点であり、主要国間の競争を激化させている。また、中国、フランス、インド、北朝鮮、ロシア、英国、米国を含む核保有国9か国の大半が、この地域で主要な役割を果たす。これらの国家が大量破壊兵器(Weapons of Mass Destruction ‐ WMD)、特に核兵器をどのように使用しうるかを理解することは、壊滅的事態を防ぐために不可欠である。競争が激しいインド太平洋地域では、古典的な安全保障のジレンマに関連する相互作用が生じやすい。自国の安全を強化する行動は、たとえ防衛的なものであっても他国に不安をもたらし、それに応じた軍備増強を引き起こす。地域の勢力バランスの変動は、こうした状況をさらに悪化させる。 

この状況が特に懸念されるのは、重要度の高い目標が軍事力や核能力に裏付けられた戦略と交差するためであり、事態のエスカレーションのリスクを高める点である。 

アナリストらによると、中国共産党と北朝鮮は、米国およびその同盟国・パートナーにとって最も深刻な課題をもたらしており、特に中国は、この地域における米国の利益に対する最大の脅威である。日本、韓国、米国の主たる目的は、中国共産党のそれとは対照的である。例えば日本の外務省は「自由で開かれたインド太平洋戦略」において、日本は「法の支配などの共通の価値観と原則に基づく自由で開かれた秩序を確立することにより、インド太平洋地域およびそれ以遠における平和と繁栄を確保する」ことを望んでいると述べている。 

2025年3月、大量破壊兵器対策訓練を行う韓国海軍兵士。ロイター

同様に、韓国の戦略は「自由で平和かつ繁栄したインド太平洋」を構想している。米国のこの地域における目標には、自由で開かれたインド太平洋の推進、地域内外での連携構築、地域の繁栄の促進、安全保障の強化、および越境的脅威に対するレジリエンスの構築が含まれる。これらはいずれも何らかの形で中国共産党によって脅かされている。中国共産党が武力で併合すると脅す台湾への米国の武器売却に対する中国の対応は、この点を如実に示している。ロイター通信によれば、2024年9月、中国はこうした武器販売への対応として、米国の軍事関連企業9社に制裁を科した。中国政府は、これら企業の中国国内資産を凍結し、中国国内の事業体による取引を禁止した。これは米国に武器支援の停止を迫る圧力として意図されている。

中国はまた、攻撃的な海上戦術も展開している例えば2024年10月、中国共産党の人民解放軍海軍(People’s Liberation Army Navy ‐ PLAN)は、戦力増幅効果を狙い、南シナ海で2隻の空母による演習を実施した。人民解放軍海軍はまた、防空、対潜水艦、対艦作戦を含む実戦演習も実施したと、英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)は報じている。中国共産党の部隊が用いるその他の戦術には、各国の国際的に認められた海洋区域内で合法的に活動している船舶に対する体当たりや放水砲の使用が含まれる。さらに中国は、いわゆるソフトパワーも行使しており、ラオスへのインフラ投資を拡大して東南アジア全域の貿易拠点へと転換する計画を進めていると、同紙は報じている。こうしたプロジェクトには鉄道、空港、港湾などが含まれ、多くの国々に巨額の債務を負わせ、国家主権を脅かす危険を伴っている一方で、中国にとっては東南アジアの主要市場への貿易アクセスを強化することを目的としている。 

シンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University)の古賀慶(Kei Koga)准教授は、2023年3月発行のパシフィック・フォーラム(Pacific Forum)の刊行物で、中国はインド太平洋地域において、主に国内の社会経済的発展に重点を置く国々との関係を構築するため、経済支援を行っていると記している。また同氏は、中国がこれらの国々に対し、国際社会および米国の基準とは異なる慣行に従うよう促していると説明している。 

2024年11月、日本で行われた日米韓合同軍事演習フリーダム・エッジ(Freedom Edge)に参加するV-22オスプレイ・ティルトローター機。ロイター

台湾は、中国本土に近く、東シナ海および南シナ海の主要航路に接しているため、中国共産党指導部にとって極めて重要な地政学的拠点とされる。台湾の支配は、中国にとって短期的な主要目標の一つとなっている。中国は、台湾海峡およびその周辺での軍事プレゼンスを強化し、実弾演習を実施するなど、攻勢的な行動を続けている。こうした動きは、米国による台湾支援の限界を探るものであり、危機の発生可能性を高めている。中国は台湾を包囲する形での軍事演習を増やしてきている。例えば2025年4月には、中国共産党が東シナ海で実弾射撃を伴う軍事演習を実施し、台湾沖の重要航路付近で封鎖作戦を行った。

しかし米国は、台湾海峡における現状を武力や威圧で一方的に変えようとする試みに反対し、インド太平洋地域での航行の自由を推進している。米国は中国の政策を、拡張主義的で危険かつ自国の利益に対する直接的な脅威と見なしている。

北朝鮮もまた深刻な脅威である。この独裁政権の主目的は、北朝鮮社会への支配を維持し、権力を保持することである。指導者たちは外部世界を敵対的な存在として描き、その結果生まれる政策は恐怖に根ざしていると、米国防情報局(Defense Intelligence Agency ‐ DIA)のアナリストらは報告している。

北朝鮮の戦略は抑止と威圧に基づいて構築されており、社会・経済・政治的問題を解決する主要な手段として軍事力を位置づけていることがその典型例である。日本海上空での頻繁なミサイル発射、大量破壊兵器能力の公然たる誇示、そして露骨なエスカレーションの脅しといった挑発行為は、政権存続という最優先目標を積極的に追求する意思を明確に示している。

地域における大量破壊兵器リスク

アナリストによると、インド太平洋地域は世界的に見ても、大量破壊兵器使用のリスクが最も高い地域の一つである。国家間のいかなる衝突も、他国の安定を脅かし、些細な紛争がエスカレートして、生存が脅かされると見なされる当事者を巻き込む事態を招く可能性がある。重大な利害が絡む紛争における意思疎通の失敗や追い詰められた状況は、核兵器使用の可能性を生む恐れがある。かつてオーストラリア戦略政策研究所(Australian Strategic Policy Institute ‐ またはASPI)に所属していたアナリスト、ウィリアム・レーベン(William Leben)氏は、中国との潜在的な紛争に寄与しうる主要な要因を指摘している。 

2024年8月、ソウルで実施された米韓合同軍事演習ウルチ・フリーダム・シールド(Ulchi Freedom Shield)において、対テロ訓練を行う韓国海軍兵士たち。AP通信

まず、各国は重要な海上航路へのアクセス確保と支配を非常に重視している、とレーベン氏は2024年2月のASPI刊行物で述べている。しかし、そのような海域を支配する海軍戦力の背後にある教義や構想は、エスカレーションを招きやすい傾向がある。また、海上紛争において先制攻撃が大きな戦術的優位をもたらすという事実と相まって、海上アクセスなどの重大な利害が絡む場合には、紛争のエスカレーションの誘因が一層高まる。第二に、中国の核ドクトリンや能力に関する曖昧さが、誤解を生む余地を作り出している。2024年9月、中国国防省は太平洋に向けて大陸間弾道ミサイルを発射したと発表した。アナリストらは、緊張が高まる中での今回の発射実験は、米国および地域の同盟国に対する警告だったと指摘している。中国による非通常兵器能力の示威は、核抑止力への取り組みの強化を際立たせている。核兵器と通常兵器の両方で使用可能な電力技術などのデュアルユースシステムの統合は、このリスクをさらに高めている。 

高強度の紛争では、ある国が他国の通常ミサイル部隊を標的にする一方で、意図せず核施設を攻撃してしまう可能性もある。被攻撃側はこれを、核戦力に対する意図的な攻撃、あるいは核攻撃の前兆と受け取る可能性が高いと、レーベン氏は記している。この「絡み合いによるエスカレーション(Escalation through Entanglement)」は極めて危険な事態を招く可能性があると、カーネギー国際平和財団核政策プログラムの共同ディレクター、ジェームズ・アクトン(James Acton)氏は、学術誌インターナショナル・セキュリティ(International Security)への寄稿記事で指摘している。 

北朝鮮の挑発行為によるエスカレーションの可能性も、地域の平和と安全を脅かす要因である。ジャパン・タイムズ紙の報道によると、北朝鮮は少なくとも7発の短距離弾道ミサイルを発射し、約400キロメートルを飛行した後、日本の排他的経済水域(EEZ)付近の海域に着弾した。韓国軍もまた、北朝鮮が日本海に向けて複数の短距離ミサイルを発射したことを確認している。このような行為は、意図的かつ攻撃的なシグナルと解釈でき、他国の国境を明白に無視する姿勢を示すものであり、緊張を一層高めるものである。

2024年11月、日米韓合同軍事演習フリーダム・エッジ(Freedom Edge)の一環として、日本の福岡空港に展開するV-22オスプレイ・ティルトローター機。ロイター

さらに、北朝鮮の外交的および経済的影響力が限られていることが、指導部が紛争時に大量破壊兵器の使用に踏み切る危険性を高める要因となっている。国防情報局のアナリストによると、北朝鮮の地域戦略は抑止力と強制に依存しているという。同局の推定では、北朝鮮の軍事支出は約1兆7,800億円〜2兆6,900億円(70億〜110億ドル)に上り、国内総生産(GDP)の20〜30%が軍事費に充てられているとされる。米国国務省によると、北朝鮮は化学・生物・放射線・核(CBRN)兵器関連の計画を保有しており、その中には生物兵器を軍事用途に応用できる能力も含まれていると推定される。また、同省アナリストによると、北朝鮮は数千トン規模の化学兵器剤を保有している可能性があり、神経剤、水疱剤、血液剤、窒息剤などを製造する能力を有するとされる。北朝鮮が大量破壊兵器能力の強化に資源の大半を割り当てるという持続不可能な戦略は、地域紛争が激化した場合、同国が通常戦力の選択肢を急速に失う恐れがある。そうした状況下では、絶望感から独裁者である金正恩総書記は、自らの体制が崩壊しつつあると確信した場合、壊滅的な手段に訴える可能性がある。

政策提言 

米国は、強固な同盟関係を構築・維持し、地域の安定を促進し、対話を奨励することで、インド太平洋地域における民主主義と自由を推進している。例えば、2023年には、日本、韓国、米国が複数年にわたる三国間演習計画を実施し、ミサイル警報に関するリアルタイム情報共有を開始している。外交および軍事分野への関与を通じて、米国は安定化要因としての立場を確立している。今後に向けては、核態勢における明確な意思疎通経路と透明性を優先し、紛争予防メカニズムへの投資を通じてエスカレーションのリスクを低減することで、これまでの成果をさらに拡大すべきである。提言としては、危機時の情報伝達メカニズムの強化と、同盟国との外交・軍事協力の強化を含む。米国は、同盟国およびパートナー国の防衛と自由で開かれたインド太平洋の維持へのコミットメントを継続して示すことで、地域の安全保障を支援し、意図せず発生する偶発的なエスカレーションのリスクを最小限に抑える取り組みを後押しできる。これにより、長期的な戦略的利益の最大化が期待できる。

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