軍事指導者に よる会議や会合に出席すると、必ずと言っていいほど一つの話題が浮上する。それは、戦闘における人工知能の導入に関する議論である。核の指揮・統制・通信(NC3)に関して、その影響は甚大であり、意思決定のための高度な分析の機会を提供する一方で、人間の制御に関する懸念も提起している。
ウォーゾーン(The War Zone ‐ TWZ)のウェブサイトによれば、「AIについて考えず、AIを考慮しなければ、我々は敗北する。私は敗北には興味がない」と、地球規模攻撃軍団(AFGSC)戦略計画・プログラム・要件担当であるタイ・ニューマン(Ty Neuman)米国空軍少将は、2025年3月に開催された空軍・宇宙軍協会(ASFA)の「2025年戦争シンポジウム」におけるNC3アーキテクチャに関するパネルディスカッションで述べている。「だからこそ、我々は絶対にこの課題を解決する必要がある」
防衛指導者らは、NC3を含むシステムの近代化と戦略的競争相手に対する優位性の維持において、AIを重要なツールであると見ている。
「AIは次世代のNC3アーキテクチャの一部として不可欠である。その技術を賢く使わなければならない」と同少将はいう。「確かに、スピードはおそらく最も重要な要素である。データは膨大な量になり、デジタルアーキテクチャや回復力のあるアーキテクチャなどでは、データ処理のスピードを最大限に活用する必要がある」
AIとは、膨大なデータから「学習」し、従来は人間の認知を必要とした問題の解決や、機能の実行により、人間の介入なしに自律的に行う可能性を秘めた最新の機械学習(ML)プログラムを指す。

核の三本柱を構成する兵器システムを統合するNC3システムを含む核抑止力の近代化は、米国戦争省(DOW)とNATOを含む多くの同盟国およびパートナーにとって最優先課題である。
「AIモデルの連鎖的な影響リスク、突発的かつ予期せぬ障壁、核の意思決定プロセスへのAIの間接的な統合を理解するため、研究の取り組みを指揮する必要がある」と、米戦略軍司令官のアンソニー・コットン空軍大将は、ネブラスカ州オマハで開催された2024年国防総省情報システム会議で述べた。「高度なAIと堅牢なデータ分析は、意思決定の優位性をもたらし、抑止態勢を強化する。情報技術とAIの優位性は、通常戦力と核戦力のより効果的な統合を可能にし、抑止力を強化する」
人間よりも「指数関数的に速い」
英国レスター大学のピーター・ラウテンバッハ(Peter Rautenbach)研究員は、2022年9月に軍備管理協会発行の「アームズコントロール・トゥデイ(Arms Control Today)」に掲載された報告書で、NC3へのAIシステム統合は核の意思決定における人為的ミスや偏見を軽減し、核リスクが最大となる危機的状況下での重大なミスを防止できると述べている。同研究員の報告書は、AIシステムの大量のデータを評価する潜在能力は利点であり、「人間のアナリストよりも指数関数的に速く」、意思決定者が攻撃を早期に認識するための正確かつ適時な情報を保証すると指摘した。「そうすることで、これらのシステムは、危機の際に利用できる最善の情報を意思決定者に提供することになる」と同氏は述べた。「公平な視点で大量のデータを継続的に分類して相関関係を見出す能力は、核セキュリティ分野における早期警戒システムや発射前探知活動に特に関連している」
「今日の通信システムにおける人間のオペレーターとして、最も安全で確実な経路を判断する能力は私にはない。なぜなら、信号は異なる100の方向に送信されるからだ」とニューマン少将は戦争シンポジウムの聴衆に語った。「一部は危険にさらされている可能性がある。一部は危険にさらされていない可能性がある。私にはそれを判断できないため、AIがその一部を担う必要がある」
コットン大将は、AIが指導者により多くの「意思決定の余地」を与え、核関連事業全体の安全性を確保できるとし、「敵対勢力は、我々の核の指揮・統制や意思決定優位性を提供する他の能力が、1日24時間、週7日、365日、いつでも準備できており、妨げられたり無効化されたりすることはないと認識しなければならない」と述べた。

TWZによると、「我々は、過去のデータを分析し傾向を特定できるほか、それらのAIツールは予測的な方法で活用することができる。システム保守と同様に予防的な管理ができ、システムのアップグレード計画を立てることが可能になり、我々のシステムでこれを活用することができる。これにより、予期せぬ中断や障害のリスクを低減できる」と、米国宇宙軍宇宙システム軍団の軍事通信・測位・航法・時刻担当副部長ライアン・ローズ(Ryan Rose)大佐は、戦争シンポジウムのパネル討論で述べた。「さらに、サイバーセキュリティに関連するデータや傾向、または敵対者の動向を把握できる能力も、意思決定者にとって有用である可能性がある」
新興技術として、AIシステムにリスクがないわけではない。ラウテンバッハ研究員が指摘する潜在的な問題には以下が含まれる。
- 整合性。機械は指示通りに動作しても、プログラマーが望んだ通りには動作しない可能性がある。整合性の取れていないAIシステムは、破滅的な結果をもたらす可能性がある。「複雑な運用環境に対峙した場合、機械学習システムは、自らの脆弱性という問題に直面することがよくある。これは、強力なインテリジェントプログラムが、学習対象外のデータ入力の微調整や逸脱によって低下する傾向にあるということだ」
- 不十分なデータ設定。新システムや言語モデルにおけるデータの不足は、特にシミュレーション訓練データを使用している場合、システムの信頼性が低下する可能性がある。「旧式の弾道ミサイル発射に関連した記録は膨大に存在するが、新型で試験回数の少ないモデルはシミュレーションの使用が必要となる」と同研究員は言う。「現実世界における核攻撃の実例データの不足は、世界にとって間違いなく幸運なことだが、そのため、NC3システム向け機械学習プログラムの訓練に用いるデータの多くは人工的にシミュレートされたものとなる」その結果、能力があるように見えても、実戦環境では機能しないAIシステムが生み出される可能性があると同研究員は指摘する。
- 人間の偏見。機械学習システムには、それを開発した人間の偏見が組み込まれている可能性があると同研究員は述べている。一部の機械学習システムが性別や人種的な偏りを示したように、敵対国の行動を観察するように訓練されたAIシステムでも同様の問題が発生する可能性がある。「人間の偏見がシステムに入り込み、特定の主体や変数に関するデータが現実世界の状況を正確に反映しない可能性がある」と同研究員は指摘する。ある警告が偏見を継続させているにもかかわらず、国家指導者や軍がその警告を中立で公正であると推定した場合、その結果は「破滅的な誤算」となり、誤検知への対応リスクを増大させる可能性がある。

人間の介在
防衛当局は、AIを軍事システムに組み込むことを慎重に進めていると述べている。現在の用途は、通常、日常業務と見なされる機能のデータ収集と分析の領域にある。2025年1月、AIを配備した初の軍艦となった米国海軍の駆逐艦フィッツジェラルドは、保守上の問題を予測し、艦隊の即応態勢を向上させるための遠隔監視システムを導入した。国家地理空間情報局(NGA)は、2017年に開始したメイブン計画を通じて、AIを用いて衛星データなどを分析し、潜在的な標的を特定しようとしている。メイブンの次のバージョンには、潜在的な脅威である異常を検知する「推論」機能を備えたAI技術が組み込まれると、NGA局長であるフランク・ウィットワース(Frank Whitworth)中将はディフェンス・ワン誌に語っている。この機能は、予期せぬ場所にいる敵のトラックや、活動に急激な変化が見られる兵器施設などの異常を検知できると、同中将は言う。
米国に加え、同盟国やパートナーも、安全保障を強化するためにAIを組み込む方法を模索している。2024年7月に発表されたNATOの改定戦略の目的は以下の通り:
NATO加盟国が模範を示し、防衛・安全保障における責任あるAI開発・利用を奨励するための基盤を提供する。
能力開発および運用におけるAI導入の加速と主流化を図り、AI活用事例の提供などを通じて同盟内における相互運用性の強化を主要要素とする。
同盟のAI技術を保護・監視し、関連リスクを管理するとともに、NATOの革新能力を保護し、安全保障政策上の考慮事項に対処する。
敵対的なAIの使用による脅威を特定し、その防御策を講じる。
世界的に、指導者たちはAIシステムの安全性と信頼性を保証するための指針にも取り組んでいる。2023年2月、米国国務省は「人工知能と自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言」を発表した。2025年6月現在、約60か国がこの宣言を支持している。

「我々は、AIの信頼性、安全性、倫理的な利用を確保しながら、イノベーションを最大限に引き出す枠組みを構築しなければならない。このバランスこそが、効果的なAIガバナンスの基礎となる」と、2024年12月にワシントンで戦略国際問題研究所(CSIS)が主催した会議で、日本の山田重夫駐米国大使は米国に対し述べた。「AIが信頼に足るものであり、すべての人にとって有益であることをどのように保証するのかは、依然として未解決の問題である」
ラウテンバッハ研究員は、AIとNC3の統合には、リスクを低減するために現行の技術的制約を考慮することが不可欠だと述べた。米国の防衛指導者もこれに同意しており、AIはNC3を含む将来の兵器システムの重要な機能となる一方で、意思決定プロセスには常に人間が介入するだろうと強調してる。
「先進的なシステムは、より迅速かつ効率的に情報を提供してくれる」とコットン司令官は述べた上で、「しかし、これらの能力を最大限に活用し、敵対勢力に対する優位性を保つためにも、常に人間による意思決定を維持しなければならない」と指摘した。

指導者らは、防御策が極めて重要だと述べた。米国とその同盟国およびパートナーは、競合国に遅れを取ることを望んでおらず、こうしたシステムを迅速に開発するという圧力は、欠陥が生じるリスクを増大させる。
「AIがどれほど優れていようと、コンピューター処理やその他の機能がどれほど優れていようと、結局は投入されるデータ次第である」とニューマン少将は述べている。「そのため、データが破損していても、データや出力結果が実際に存在するかどうかを判断する方法がない。だからこそ、人間の介入が絶対に必要となるのだ」
「AIの限界を押し広げ、信頼性と信用性の高い革新的なソリューションを提供することは重要である。しかし、特にNC3システムにおけるAIの統合には、いくつかの課題とリスクが伴うことも認識している」とローズ大佐は述べている。「堅牢なテスト、検証、監視メカニズムの実装により、これらのリスクや課題の一部を軽減する方法を見出し、最終的には意図した通りに動作するAIシステムを提供できると考えている。↔
